春
「もうすぐ春だな。」
携帯に届いた短いメール。
そのメールを見たとたん、日向は車を走らせていた。
暖かい気持ちで溢れているのに、胸が苦しくなるこの感情。
こんな想いをこの俺にさせるのは広い世界でもただひとり。
冷たい表情に隠されたやさしさ。
鋭い瞳の奥にあるおだやかさ。
ときおり見せるそんな彼に魅せられてもう何年になるだろう。
遠い異国の空の下でも時折彼を想う。
好き・・・なんだろうな。
高等部のグラウンドを見下ろす桜の樹。
その傍で昼寝をしている彼を足先で蹴飛ばす。
「早かったじゃん。」
「待たせたら、あとが怖いからな。」
本当は嘘だ。1秒でも早く彼に会いたかったから。
綺麗な笑顔をみせる彼にどきりとする。
寝転ぶ彼の横に座り込み、一緒にグラウンドを見下ろす。
「俺さ、日向に言いたいことあるんだ。」
ガバリと起き上がり、日向をみつめる。その瞳の黒さに吸い込まれそうだ。
「俺、お前が好きだ。」